第1回:なぜ今、セキュリティが「最重要の経営課題」なのか?
ネットワーク&セキュリティ

■登場人物紹介
●MIRAI(ミライ): 情報技術に詳しい、面倒見の良いAIロボット。ITコンサルタントとして、人々の悩みに寄り添いながら専門知識を分かりやすく解説してくれる。
●みなと: 中小企業に勤める社会人1年目。本来のIT管理担当である先輩が入院してしまい、急きょ、留守を預かることに。右も左も分からないまま、奮闘している。
※本記事に掲載している情報は2026年2月時点のものです。
みなと(はぁ…と深く、重いため息をついて机に突っ伏す)はぁ……。先輩、早く戻ってきてくれないかなぁ。
MIRAIみなとくん。困った顔してるね。何かあったの?
みなとあ、MIRAIちゃん…。正直かなり大変なんだ。先輩が入院してから、社内システムのお守りは僕を含めて数人で回してるんだ。さっき社長に呼ばれて行ったら「最近ニュースでサイバー攻撃が増えてるらしいけど、ウチは大丈夫だよね?」って。
MIRAI大丈夫?
みなと大丈夫……じゃないと思う。ウチの対策なんて、先輩が昔入れたソフトウェアが動いてるだけで、最新の攻撃を防げるかどうかなんて誰も検証できていないんだから。
MIRAIそれは危ない状況だね。
みなと課長が今後のセキュリティ予算についてそれとなく聞いてみたら、「まだ何も起きてないのにそこまでお金をかけなくても」って言われちゃったみたいでさ。
MIRAI「何も起きていないから大丈夫」と過信してはダメよ。いつ大事故が起きてもおかしくないわ。ねえ、この前ニュースになった、ある自動車部品メーカーの事件を詳しく知ってる?
みなとえ? ああ、ランサムウェアのニュースだっけ?ウチみたいな中小企業は関係ないと思って詳しくは知らないなぁ。
MIRAIそれが最初に被害に遭った会社、従業員数はみなとくんの働いてる会社とほぼ同じ規模なの。そのたった1社がウイルスに感染したせいで、供給先の大手自動車メーカーの全工場が、数日間にわたって稼働停止に追い込まれたのよ。
みなとえ!?たった1社の、しかもウチみたいな規模の会社のせいで?
MIRAI想像してみて。精巧なスイス製の機械時計があるとするわね。その中の、本当に小さな歯車が一つさびついて動かなくなったら、時計はどうなる?
みなと……針は止まっちゃうね。どんなに立派な時計でも。
MIRAIそう。今の製造業のサプライチェーン(供給網)は、その機械時計と同じなの。巨大なメーカーも、みなとくんたちのような中小企業のひとつひとつが完璧に動いて初めて機能する。いわば「運命共同体」よ。鎖の一つが切れれば、全体が崩れ落ちてしまう脆さを抱えているわ。
みなともし……もし、その「さびついた歯車」や「切れた鎖」が、ウチの会社になってしまったら…。
MIRAI取引先からの巨額の損害賠償、信用の失墜、そして最悪の場合、取引停止……みなとくん、これは多くの命を預かる飛行機の整備を、少人数で、しかも「ついで」で任されているのと同じようなものよ。ましてやいま先輩が入院しているんだから。何とかしないとね!

みなとでもさMIRAIちゃん。そもそも論なんだけど、ウチみたいな小さな会社、攻撃者が狙うメリットあるの? 金庫にお金なんて入ってないし。
MIRAI今のサイバー攻撃、特に猛威を振るっている「ランサムウェア」は、「事業そのものを人質に取る誘拐ビジネス」なのよ。
みなとそういえば前に「ランサムウェア」の仕組みの話をしてくれたね。そっか、やっぱり僕の働く会社でも意識しないと。
MIRAIそういうこと。例えば、みなとくんの働く会社が長年かけて開発した、他社には真似できない「特殊な加工の設計図」や「特許情報」。あるいは、明日の生産予定が入った「工程管理データ」。これらは会社にとても大事よね?
みなともちろん! それがなくなったら、ウチはただの貸倉庫になっちゃうよ。明日から仕事ができない。
MIRAI攻撃者はそれを熟知しているの。だから、データを盗んで売るのではなく、データを暗号化してロックをかけ、「元に戻してほしければ身代金を払え」と脅迫する。例えるなら、会社の正面玄関と金庫と工場の入り口の鍵をすべて新しいものに変えてしまい、「開けてほしければ金を払え」と言ってくるようなものよ。
みなとうわぁ、悪質すぎる…。
MIRAIさらにタチが悪いのは、近ごろは犯罪組織間で役割分担をしていて、まるで普通の企業みたいに運営されていることね。
みなと企業みたいに?
MIRAIええ。「攻撃ツールの提供者」「攻撃担当」みたいに分担されていて、なんと売上最大化の手段として「カスタマーサポート」まである場合もあるのよ。「身代金の払い方が分からない? チャットでサポートしますよ」なんてね。
みなとなんだそれ! 親切なのか極悪なのか分からないよ!
MIRAIそれくらい組織的で、ビジネスライクに攻撃してくるってこと。しかも、みなとくんの会社が持っている「取引先である大手メーカーの未公開データ」。これは産業スパイからすれば、喉から手が出るほど欲しいお宝よ。
みなと「大事なデータの一部」がある限り、僕たちは常にターゲットなんだね……
みなと状況は分かったよ。痛いほど分かった。でも、一番の壁はやっぱり「社長」なんだよ。「セキュリティソフトウェア? 金がかかるなら入れ替えなくていいんじゃないか」って感じらしくてさ。新しい工作機械なら「これで生産スピードが倍になります!」って言えば喜んではんこを押すのに、セキュリティは「何も起きないこと」が成果でしょう? 「見えないものに金を払うのはなぁ」って言われたら、説得できる気がしないよ。
MIRAI経営者がセキュリティを「コスト(損失)」と捉えてしまうのは、残念ながらよくあることね。でも、視点をガラリと変えるための良い「例え話」があるわ。みなとくん、F1などのレーシングカーに、なぜあんなに高性能で高価な「ブレーキ」がついていると思う?
みなとえ? それは……ものすごいスピードで走るから、普通のブレーキじゃ止まれないからでしょ? 安全のためだよね。
MIRAI半分正解。でも、レースの世界では「高性能なブレーキがあるからこそ、コーナーのギリギリまでアクセルを踏み続けられるし、誰よりも速く走れる」って言われるの。
みなとなるほど! 止まるためだけじゃなくて、速く走るための機能なんだ。
MIRAIセキュリティもまったく同じよ。社長は「DXだ!」「IT化だ!」ってアクセルを踏んでビジネスを加速させたいんでしょう? でも、何かあった時に確実に守れる「ブレーキ」がない車で、時速300キロ出せる?
みなと無理無理! 怖くてアクセル踏めないよ!
MIRAIでしょう? セキュリティ対策は、単なる守りのコストではないわ。会社が安心してビジネスを展開し、勝ち続けるための必須の「投資」なの。
みなと「攻めるための守り」か…。その言い方なら、社長にも響くかもしれない!
MIRAIそれに、これからの時代は「セキュリティがしっかりしていること」自体がブランドになるわ。「あそこの会社はセキュリティ対策が万全だから、安心して極秘の図面を渡せる」。そう思わせることができれば、競合他社に差をつける最強の武器になるのよ。
みなと逆に言えば、対策をしていない会社は、危なくて仕事が出せないってことか。
MIRAIそう。セキュリティ対策をしないことは自社が大怪我をするだけでなく、取引先まで巻き込んで大惨事になるわ。それを防ぐ決断ができるのは、現場のみなとくんではなく、経営者である社長しかいないのよ。
みなと分かったよMIRAIちゃん。僕、もう一度社長が向き合ってくれるように課長と作戦を練ってみる。「これはPCの話じゃなくて、会社の存続と未来の話です」って!
MIRAIその意気よ。でも気をつけて。社長の許可を得て、いざ対策を始めようとした時、多くの企業がハマってしまう落とし穴があるの。
みなとえ? 落とし穴? 予算さえもらえれば、あとは高いソフトウェアを買って入れるだけじゃないの?
MIRAIそう単純なら誰も苦労はしないわ。多くの中小企業が、「金はかけたのに意味がなかった」「逆に現場が大混乱して、社員が辞めてしまった」なんていう悲惨な失敗に陥っているの。
みなとな、何それ怖いな……
MIRAI次回は、その「中小企業が陥る5つのセキュリティのわな」について解説するわ。みなとくんの会社も、もう片足を突っ込んでるかもしれないわよ?
社長を説得し、予算を勝ち取ったみなと。しかし、意気揚々とツールを導入した彼を待っていたのは、現場の疲弊と運用崩壊の危機だった!?多くの中小企業がハマる「落とし穴」の正体とは?
第2回:取引停止の危機!? 中小企業に迫る「格付け」の波
第3回:孤独な担当者を救う「置いてけぼりにしない」セキュリティ運用
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